専任IT担当者がいない中小企業の情報漏洩対策 無理なく続ける7つの方法
「情報漏洩対策を進めたいが、社内にIT担当者がいない」
「総務担当者がパソコン管理を兼任しているため、時間をかけられない」
「セキュリティ会社へ何を頼めばよいのか分からない」
中小企業では、必要性を理解していても、人員・予算・知識の不足から対策が進まないことがあります。だからといって、総務担当者にすべてのセキュリティ知識を身につけてもらう必要はありません。
大切なのは、社内で把握すること、外部へ任せること、経営者が判断することを分けることです。役割を明確にし、影響の大きい対策から順番に進めれば、専任IT担当者がいなくても情報漏洩のリスクを減らせます。
この記事では、従業員15~40名程度の会社を想定し、無理なく続けられる7つの方法、90日間の進め方、外部へ相談する範囲を解説します。
2026年10月23日
中小企業の対策が進まない本当の理由
対策が進まない理由は、経営者や総務担当者の意識が低いからとは限りません。多くの場合、次のような構造的な問題があります。
- 何を使っているか、誰が管理しているか一覧になっていない
- 問題が起きるまでIT業者へ相談しない
- 製品を導入した後、警告や更新を確認する人がいない
- 担当者が通常業務の合間に調べている
- 経営者へ説明する判断基準や費用の目安がない
- 取引先ごとに異なるチェックシートへの回答が必要になる
この状態で「セキュリティを強化しよう」とだけ指示しても、担当者は何から始めるか決められません。
最初に必要なのは製品選びではなく、役割と優先順位の整理です。
専任IT担当者がいなくてもできる7つの方法
方法1 守る情報と止められない業務を3つずつ決める
すべての情報とシステムを同じ強度で守るのは現実的ではありません。まず経営者が「漏れたら困る情報」と「止まったら困る業務」を3つずつ選びます。
| 守る情報の例 | 止められない業務の例 |
|---|---|
| 顧客名簿・本人確認書類 | 受注・出荷 |
| 従業員・給与情報 | 請求・入金確認 |
| 契約書・設計資料・見積情報 | メール・取引先連絡 |
方法2 社内・経営者・外部IT担当者の役割を分ける
情報漏洩対策を総務担当者だけへ任せると、調査と判断が一人に集中します。次のように役割を分けると、専門知識がなくても運用できます。
| 担当 | 主な役割 | 担当しなくてよいこと |
|---|---|---|
| 経営者 | 優先順位、予算、停止判断、社外説明の承認 | 個別端末の設定や原因調査 |
| 総務・社内窓口 | 利用者、入退社、契約、発生状況の把握 | 脆弱性判断や専門業者の選定を一人で行うこと |
| 社員 | ルールを守る、不審事象を早く報告する | 詐欺や攻撃を完璧に見抜くこと |
| 外部IT担当者 | 設定確認、原因切り分け、台帳・手順整備、業者調整 | 会社の経営判断や情報の重要度決定 |
方法3 無料・低コストでできる設定から始める
既に契約しているサービスに含まれる機能を使っていない会社もあります。まず追加費用の少ない対策を確認します。
- Microsoft 365やGoogleの多要素認証を有効にする
- Windows Updateと業務ソフトの更新状況を確認する
- 共有リンクへ閲覧者と期限を設定する
- 退職者・外部ゲスト・未使用アカウントを停止する
- 外部宛てメールの送信保留や警告を利用する
- 端末の画面ロック、暗号化、紛失時の遠隔停止を設定する
- バックアップの対象と保存先を整理する
方法4 台帳は最初から完璧に作らない
機器や契約の台帳がない会社では、詳細な様式を作ろうとして止まりがちです。最初は次の6項目だけで構いません。
| 記録する項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | パソコン、ルーター、Microsoft 365、会計ソフトなど |
| 利用者・部門 | 誰が使っているか |
| 管理者 | 社内担当者と外部業者 |
| 契約・連絡先 | 販売会社、保守会社、問い合わせ先 |
| 重要な日付 | 更新日、保守期限、退職時の停止日 |
| 保存情報 | 顧客情報、従業員情報、契約書など |
方法5 日常業務の中へ対策を組み込む
セキュリティ対策を特別な作業にすると続きません。既存の業務へ確認項目を追加します。
| 日常業務 | 追加する確認 |
|---|---|
| 入社 | 個別アカウント、多要素認証、必要な権限だけ付与 |
| 異動 | 不要になったフォルダーとシステムの権限を解除 |
| 退職 | 当日のアカウント停止、端末回収、共有データ引き継ぎ |
| 月末 | 更新失敗、セキュリティ警告、バックアップ結果を確認 |
| 契約終了 | 委託先アカウント、共有リンク、預託データを削除 |
| 年1回 | 復元テスト、連絡訓練、台帳と権限の棚卸し |
方法6 社員へ「見抜き方」より「報告方法」を教える
詐欺メールは自然な日本語になり、実在する代表者や取引先の名前も使われます。全社員に完璧な判別を求めることはできません。
教育では、次の3点を繰り返します。
- 1. 急な送金、LINE追加、認証番号、パスワード入力を求められたら止まる
- 2. メールに書かれた連絡先ではなく、普段の電話や社内チャットで本人確認する
- 3. 開いた、返信した、入力した可能性がある場合は、隠さずすぐ報告する
方法7 専門的な判断と継続管理は外部へ任せる
中小企業がすべてを自社対応する必要はありません。次のような作業は、継続的に相談できる外部IT担当者と分担すると進めやすくなります。
- Microsoft 365、クラウド、ルーター、バックアップの設定確認
- 不審なログインや警告の確認
- 機器・アカウント・契約台帳の整備
- 入退社手順、初動手順、社内ルールの作成
- 既存業者への問い合わせと回答内容の整理
- 取引先のセキュリティチェックシートへの対応整理
- 事故時に専門会社、保険会社、弁護士等へつなぐ判断
90日で進める現実的なロードマップ
通常業務を続けながら進める場合は、30日ごとに目的を分けます。
| 期間 | 目的 | 主な作業 | 完了の目安 |
|---|---|---|---|
| 1~30日 | 危険な状態を減らす | 多要素認証、更新、退職者停止、外部共有、バックアップ、相談先 | 最優先項目の未対応と担当者が分かる |
| 31~60日 | 管理できる状態にする | 機器・サービス台帳、重要情報、管理者権限、入退社手順、委託先確認 | 誰が何を管理しているか説明できる |
| 61~90日 | 事故に備える | 復元テスト、初動連絡網、社員への周知、外部相談先との確認 | 事故時の連絡と最初の行動を試せる |
| 91日以降 | 運用を続ける | 月次確認、権限棚卸し、教育、年次訓練、経営者レビュー | 記録を残し、変更時に更新できる |
どこまで自社対応し、どこから外部へ相談する?
| 内容 | 社内で行いやすいこと | 外部へ相談したいこと |
|---|---|---|
| 現状把握 | 利用者、契約書、困りごとの整理 | 設定・権限・ログの確認 |
| アカウント | 入退社情報と必要権限の連絡 | 多要素認証、管理者分離、一括設定 |
| バックアップ | 守るデータと止められる時間を決める | 方式選定、分離、復元テスト |
| メール・詐欺 | 本人確認と報告ルールの周知 | 防御設定、ヘッダー・影響確認 |
| 事故対応 | 発見時刻・症状・対象者を記録 | 隔離、証拠保全、原因切り分け、専門家調整 |
| 取引先対応 | 質問書・契約・現状資料を集める | 回答整理、不足対策、根拠確認 |
社内の役割は「会社の事情を把握し、判断材料をそろえること」です。専門的な原因調査や安全な設定変更まで、一人で抱える必要はありません。
予算を決めるときは製品価格だけを見ない
対策費用を検討するときは、ライセンスや機器代だけでなく、設定、運用、警告対応、更新、復旧支援まで含めて確認します。
- 導入後に誰が設定を確認するか
- 警告が出たとき誰へ連絡できるか
- 退職者や端末追加時に設定を変更できるか
- バックアップから戻す支援が含まれるか
- 事故調査や保険の対象・上限は何か
安価でも運用する人がいなければ効果を確認できません。反対に、すでに契約しているMicrosoft 365などの機能を正しく使うだけで改善できる場合もあります。
中小企業が利用できる公的な仕組み
IPAの5分でできる情報セキュリティ自社診断
IPAは、中小企業が自社の対策状況を確認できる「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」を公開しています。自社だけで診断する場合も、第4記事のチェックリストとあわせて現状把握に利用できます。
SECURITY ACTION
SECURITY ACTIONは、中小企業が情報セキュリティ対策への取組を自己宣言する制度です。自社診断や情報セキュリティ基本方針の策定・公開を通じて、社内の取組を整理し、外部へ示すきっかけになります。認証や監査を受けたことを示す制度ではないため、宣言後も実際の運用を続けることが重要です。
サイバーセキュリティお助け隊サービス
国が認定した民間サービスには、相談窓口、異常監視、緊急時支援、簡易的なサイバー保険などを組み合わせた中小企業向けサービスがあります。提供範囲と価格はサービスごとに確認してください。
SCS評価制度の動向
経済産業省は、サプライチェーンを構成する企業の対策状況を共通の基準で可視化するSCS評価制度について、★3・★4の申請受付を2026年度末頃に開始することを目指しています。制度自体は任意ですが、取引契約で委託元が必要な水準を示す使い方が想定されています。
現時点で必要以上に慌てる必要はありませんが、台帳、ルール、教育、点検結果など「実際に対策していることを説明できる記録」を残しておくことが、今後の取引先対応にも役立ちます。制度の詳細は変更される可能性があるため、申請や契約を検討するときは公式の最新情報を確認してください。
取引先へ説明できるように残しておきたい記録
- 機器・サービス・管理者の台帳
- 入社・異動・退職時の確認記録
- OS・ソフトウェア・ネットワーク機器の更新記録
- 多要素認証と管理者権限の確認結果
- 外部共有・外部ゲストの棚卸し結果
- バックアップと復元テストの結果
- 社員教育の実施日と内容
- 事故・ヒヤリ事例と改善内容
立派な規程を作るだけでなく、実際に確認した記録が重要です。日付、担当者、結果、未対応、次回確認日を残します。
よくある質問
まとめ 中小企業に必要なのは専任者より続けられる体制
専任IT担当者がいない会社でも、情報漏洩対策は進められます。
- 守る情報と止められない業務を決める
- 経営者・総務・社員・外部IT担当者で役割を分ける
- 既存サービスの無料・低コスト機能から使う
- 簡単な台帳から始める
- 入退社や月次業務へ確認を組み込む
- 社員には見抜き方だけでなく報告方法を伝える
- 専門的な判断と継続管理を外部へ任せる
セキュリティ対策は、製品を導入する一度きりの作業ではありません。会社の人・機器・サービスが変わるたびに確認し、事故が起きたときに相談できる状態を続けることが重要です。
社内だけで抱えず、外部のIT担当者と一緒に進める
アルファパートナーズの「よろずITおまかせサポート」は、専任IT担当者がいない中小企業のIT環境を継続的に確認し、総務担当者と経営者の判断を支援します。
- 現在利用している機器・サービス・アカウントの整理
- Microsoft 365、多要素認証、外部共有、管理者権限の確認
- バックアップ、入退社手順、初動連絡網の整備
- 社員からの小さなIT相談と不審メールの確認
- 既存業者・メーカー・専門会社との窓口と調整
- 取引先のセキュリティチェックへの対応整理